2023-01-01から1年間の記事一覧

私の日は遠い #17

心が揺れ動き続けて定まらないような状態はとても疲れるなとシズオは思った。人の心なんてわからないものであるということはあまりにも分かりきったことだろうけれど、現実にはあまりにもそういったことが多すぎて心がすぐに許容範囲を追い抜かれてしまう。…

「エクソシスト 信じる者」鑑賞後メモ

youtu.be アメリカという国を構成している根幹的な思想として存在するキリスト教的なマインドを解体していくことを今作は試みているというか、より平たく言えばアメリカに暮らす白人中年男性による自己批判的なトーンが本編を覆っている。それぞれの人物造形…

「ほかげ」鑑賞後メモ

youtu.be 言語化するのが難しい深い領域にまで触れるリーチの長さをこの作品は持っている。その領域とはなにか。「暴力が生まれるところ」や「光と闇のあわい」というような表現をするのがわかりやすいだろうかと思う。塚本晋也の新作「ほかげ」は、こういっ…

「首」鑑賞後メモ

youtu.be ポリティカル・コレクトネス以降のあらゆる価値観の相対化や変動によってこの世界の文化におけるとある側面の問題は改善され、別の部分は大して変化せず、また場合によっては悪化している事柄も数多くあるのだろう。しかし、そもそも、そういった事…

「ゴジラ-1.0」鑑賞後メモ

youtu.be ゴジラが出現する直前の予兆を表すものとして深海魚の死骸が海に浮かび上がってくるという演出があるのだけれど、その死骸が色合いや形状的に男性器や精子を思わせるものになっているところに少し驚いた。これによって今作におけるゴジラが、男性性…

「キリエのうた」鑑賞後メモ

youtu.be 岩井俊二の映画は観たことがなかったのだけれど、少なくとも「キリエのうた」においてこのひとは「揺れ動き」についての話をしたいのだなと感じた。現在と過去を交互に行き来するかのような編集と手持ちで揺れ動きが多いカメラの撮影や人物の表情に…

「ザ・キラー」鑑賞後メモ

youtu.be 弾薬、食事、コワーキングスペース、iPhone、シェアスクーター、輸送、そして音楽と時間。とにかくあらゆるものを片っ端から消費していくことでマイケル・ファスベンダー演じる殺し屋(The Killer)は生きている。目には見えないけれど遠くに薄ぼん…

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」鑑賞後メモ

youtu.be アヴァンタイトルにおいてアメリカ先住民の人々による死者を弔う儀式が執り行われる様子が映し出されるのは、作中におけるアメリカ白人男性たちとの「死」に対する見方や価値観の決定的な違いを印象付けるためであるように思えた。先住民の人々は皆…

「ザ・クリエイター/創造者」鑑賞後メモ

youtu.be ストーリー自体はとてもシンプルだと思うけれど、細やかな演出の積み重ねによって「人間らしさ」を可視化していく手腕や、ネパール、インドネシア、中国や日本といったアジアの国々を中心とした8カ国80ヶ所にクルーが赴いて撮影を行うことによって…

私の日は遠い #16

「豊かな想像力」というものはどこからやってくるのだろうか。シズオはいつも自分の脳みそが渇いているような、潤いが欠落したような状態で生きているようなイメージを日常において覚えることが多かったので、そんな無にも等しい状態から何かが勝手に湧き出…

「熊は、いない」鑑賞後メモ

youtu.be 正直にいうと、中盤あたりで眠たくて何度か目を閉じてしまった。朝から快便で気分が良かったからとか、劇場内の空調が程よい加減だったからとか、珍しく近くに変なお客がいなかったからとか作品とは関係ないレベルの要因も色々あったような気はして…

「兎たちの暴走」鑑賞後メモ

youtu.be シェン・ユー監督長編デビュー作である「兎たちの暴走」のフライヤーに記載された作品紹介文において「母と娘が娘の同級生を誘拐した2011年の実際の事件から着想を得て映画制作に取り組んだ」と記載されているように今作は実話ベースのものとなって…

「アステロイド・シティ」鑑賞後メモ

youtu.be 1950年代のアメリカで放映されていたテレビ番組内の劇中劇、という体裁をとっているのはこの作品が「エンターテインメント」や「面白さ」といった観念そのものを思考の対象とするためなのだろうというふうに思えた。「面白さ」が対象化されるとはど…

「#ミトヤマネ」鑑賞後メモ

youtu.be ワイドショーの街頭インタビューを模した映像から本編が始まる。玉城ティナが演じる「ミトヤマネ」というインフルエンサーに対しての印象が何人かの一般のファンの口から語れるのだが、それぞれトーンには違いがあるものの基本的には全肯定の意見し…

私の日は遠い #15

タケオに彼女が出来たという噂を聞いたシズオはある日彼の住む二階建てアパートの近くを通りかかったときにベランダの窓ごしに家の中をのぞいてみた。するとそこにソファに横になって眠っている女性の姿が見えたので、あれがあいつの彼女かなんて思いながら…

オレとオマエのサマーソニック

ネットやテレビなどのニュースでもサマソニ初日の熱中症に関する報道が話題になっていたけれど、現地は実際ほんとうに暑かった。俺は幼なじみと共に2日目のサマソニに参戦するため真昼の海浜幕張に殴り込んだ。もちろん前日のニュースを事前に確認していた俺…

「バービー」鑑賞後メモ

youtu.be 破壊的、破滅的であることを良しとしている人間は現代においてはもはやパンクでもデストロイでもない、とざっくりと言えばそんなようなことについての文章がele-king紙版の新しいものに掲載されていた。では、一体何がセンセーショナルな表現足り得…

「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」鑑賞後メモ

youtu.be 今作の序盤において、空港内で発見された爆弾を解除するために高度な人工知能を搭載したAIが繰り出すなぞなぞにトム・クルーズやその仲間たちが全力で答えていくという面白すぎる展開があるのだが、そこにおいて提示される今作のテーマや内包されて…

「君たちはどう生きるか」鑑賞後メモ

ケンドリック・ラマーは昨年リリースした新作「Mr.Morale & The Big Steppers」に収録されている「Mirror」という楽曲内において”I Choose me, I’m sorry”というラインを書き残した。かたや日本では宇多田ヒカルが昨年初めの「BADモード」収録の「PINK BLOOD…

私の日は遠い #14

湿度の高い空は雲に覆われていて、たまに雨が降ったり止んだりしている。そんななかで誰がやる気を起こしてなにかに取り組んだりするのだろうか。とは言いつつ今日も街は動き続けている。シズオには理解し難い摂理によって大量の人間の生活や心がかきまわさ…

「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」鑑賞後メモ

youtu.be まずはやはり自己紹介のシークエンスから今作も始まるのだが、そこで登場するのはマイルス・モラレス/スパイダーマン(シャメイク・ムーア)ではなくグウェン・ステイシー/スパイダー・グウェン(ヘイリー・スタインフェルド)で、「今回はちょっと…

「怪物」鑑賞後メモ

youtu.be 暗闇のなかで少年の麦野湊(黒川想矢)が虚ろな歩調で草むらの上を歩いており、その動きに合わせるようにピアノのアルペジオーー坂本龍一による「20220207」ーーのサウンドが鳴り響く。カメラの視点が上がると湊が手に持ったライターの火を灯す様子が…

「Rodeoロデオ」鑑賞後メモ

youtu.be 主人公のジュリア(ジュリー・ルドリュー)はバイクを盗まれたことに対して苛立っていた。男たちの静止を振り切りながら病院の外に出ると仲間の車に一緒に乗せてもらいたいと頼むが、彼女の身を案じた男たちは帰った方がいいと何度も諭す。なんとか…

「aftersun/アフターサン」鑑賞後メモ

youtu.be 家庭用ビデオカメラのテープが巻き戻される音から本編は始まり、やがて粗い解像度の映像が映し出されるとそこには本作の主人公のひとりであるカラム(ポール・メスカル)の姿が見える。そのビデオを撮影していた、当時11歳の少女であったソフィ(フ…

「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」鑑賞後メモ

youtu.be シリーズ10作目となる「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」は本編が始まるやいなやスクリーンにどデカく「10 YEARS AGO」の文字がドーンと表示され観客の意識はいきなり5作目の「ワイルド・スピード MEGA MAX」の時代にぶっ飛ばされる。当時…

「EO イーオー」鑑賞後メモ

youtu.be 暗闇で横たわっているEO(イーオー)という名のロバに寄り添いながら優しく言葉を語りかけているのはカサンドラ(サンドラ・ジマルスカ)という若い女性だ。弱っているEOを彼女が介抱している様子を映しているのだろうかと思っていると突如、赤い照…

「TAR/ター」鑑賞後メモ

youtu.be インスタライブのような画面が表示されているスマートフォンには飛行機の座席でアイマスクをして眠っているひとりの女性の姿が映し出されている。すると今度はその女性を揶揄するかのような動画視聴者によるチャット文が画面上にいくつか表示される…

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」鑑賞後メモ

youtu.be レディオヘッド”Creep”のアコースティックアレンジVer.が流れ出す。そしてその歌を小さな声で口ずさみながら少し切ない表情で階段に座り込んでいるロケット(ブラッドリー・クーパー)のクローズアップショットから本編が始まる。彼が立ち上がって…

「レッド・ロケット」鑑賞後メモ

youtu.be 極端なクローズアップから本編が始まり、そこからカメラがゆっくりと引いていく。するとそこにはバスの座席カバーに描かれた宇宙を模したようなデザインが立ち現れ、それから人間の身体の一部が画面上部に向かって盛り上がっているかのようなモノが…

部屋とブラックメタルとラップとフォークソングとKamuiとアイドルと俺

夏だよな?どう考えてもあの曲がり角から顔を覗かせているのは、やはり夏だろう。見慣れているような、でもまた前会った時とは少し違った顔つきをしているようにも見える。 最近は夕方くらいになってもまだ陽が明るくて、深呼吸をすると春というよりは初夏っ…