部屋とブラックメタルとラップとフォークソングとKamuiとアイドルと俺

 夏だよな?どう考えてもあの曲がり角から顔を覗かせているのは、やはり夏だろう。見慣れているような、でもまた前会った時とは少し違った顔つきをしているようにも見える。

 最近は夕方くらいになってもまだ陽が明るくて、深呼吸をすると春というよりは初夏っぽい匂いがするし鼻もムズムズしなくなってきた(と言いたいところだがずっと花粉症の薬を飲んでいた影響かまだ少し鼻に違和感がある)。まあ、細かいことはどうでもいい。寒いよりは暑い方がなんか知らんけど気分いい気がするよ、なんとなく。

 

 さて、季節の変わり目ということもあってか自律神経とか副交感神経?みたいなやつのバランスがグラグラして感情も揺れやすいような気がする。そんなタイミングで見事に俺の心を掴んでくれた音楽というかアルバムをかなりテキトーに挙げていこうかと思う。参考にする必要なんてない。ただ水のように体に流し込んだらさっさと外に放り出してくれればいい。

 

 まず1枚目はこれ。

 

“アイランド” 明日の叙景

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 ジャケの見た目だけで内容を正確にイメージできる人はおそらくいないのではないだろうか。「明日の叙景」のセカンドアルバム”アイランド”をまずはとっととSpotifyでもYouTubeでもなんでもいいから聴いてみたらいい。そしてその途轍もない純度の高さを誇るピュアネスの塊のような音像に心をめちゃくちゃにされてしまえばいいと思う。ブラックメタルバンドのアルバムなんて聴かないからどうでもいいとか言わせないよ。だって俺はもうこのアルバムのことをどうしても忘れられなくなってきているから。

 「J-POPとブラックメタルの融合」というコンセプトのもと今作は作られているそうなのだけれど、真っ先に連想してしまうのはやはりDeafheavenやCoaltar Of The Deepersではないだろうか。しかしその二組には成し得ないであろうポップス的な軽やかさを、明日の叙景は今作において獲得しているように思える。それはリリック面においてごくありふれた小市民的な視点が導入されていることが大いに関係しているはずだ。アルバムの一曲目「臨界」から「蝉時雨が聞こえないのは AirPods Proのせいじゃない 誰にも邪魔されたくないと願った君自身のせいだよ」というリリックを臆面も無く叫び倒すその心意気を俺はただただ支持したい。それだけだ。

 まあ、まずは「キメラ」という楽曲のミュージックビデオを見てみるのがベストかもしれない。

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 それじゃ、2枚目にいこう。

 

“SCARING THE HOES” JPEGMAFIA・Danny Brown

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 早回しされるサンプルとちょいアブストラクトな感じのビートに軽やかなフロウでラップをかましていくのはJPEGMAFIAとDanny Brownだ。JPEGMAFIAはエレクトロニクスの成分が多めの、それでいてインダストリアルな質感を持つ硬質なビートと、まるでハードコアパンクのような激しさを伴うラップが特徴的だ。Danny Brownは少し鼻にかかったような高めの声がチャームであり、JPEGMAFIAと比べるとDannyは正統派のヒップホップ的なアプローチをとることは多いのかもしれない。それでも彼の代表作のひとつであろう”Atorocity Exhibition”の持つヘヴィな質感はJPEGMAFIAと通ずるところが大いにあるように思える。そんなふたりが組んでアルバムを出すなんてことは出る直前まで知らなかったので素直に驚いた。実際、蓋を開けてみると…ナニコレ、ええやーん!という感じでアガる、など。OMSBがDanny Brownのフロウが少し昔の頃みたいに戻ってしまっていたりなんなりでちょっとビミョーかも、みたいな感想をTwitterで呟いているのをチラッと見かけたりしてなるほど、とも思ったけれど、まあ、でも俺はこの作品カッコいいと思う。

 

 

 では次、3枚目はこちら。

 

“the record”  boygenius

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 Phoebe BridgersとJulien Baker、それからLucy Dacusによる、もはやドリームチーム的な組み合わせと言っても良いであろうboygeniusとしての初のアルバムとなる作品(前作はEPということでいいのだろうか)。フォークソング的なプロダクションとかソングライティングを軸にしつつも3人それぞれのカラーがちょこちょこ顔を覗かせるような作りになっている。ここ数年のフォークというとBig Thiefの存在が大きいのかもしれないけれど、正直彼らの近作よりもboygeniusによる今作の方が軽やかで聴きやすいなという印象は強い。肩の力を抜いて聴けるけれど、それでいて確かな魅力もある。仲のいい友達の演奏を聴いているような親密さを勝手に連想してしまうのは俺だけだろうか。

 

 

 あと、アルバムではないのだけど曲単位で最近グッと心を掴まれたものもあるのでそれについても少し。

 

“Fuk Kamui” Kamui

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 まあそりゃここ数年ずっと好きなラッパーの新曲ということでテンションアガるけれど、この曲のリリックであったり出来るまでの経緯を思うと胸が痛くなったりもする。なんのことか分からないよというひとはネット上でralphというラッパーとKamuiとがいわゆる「ビーフ」としていくつかのやりとりを行ったことをなんとなくどこかで調べてもらえたら、と思う。俺はKamuiが持つ「脆さ」がすごい好きな部分でもあるので、いろいろあってもやはり、「応援する」という気持ちでいる。

 

 

“アイドル” YOASOBI

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 YOASOBIのユニットとしてのコンセプトと「推しの子」という作品が持つ主題に共通する部分があるからなのかもしれないけれど、すごくいい曲になっている。というか単純に俺はこういうこと言ってる曲が好き。「誰かに愛されたことも 誰かのこと愛したこともない そんな私の嘘が いつか本当になること」の箇所で昇天。

 そういえば、最近パクチャヌクの「お嬢さん」を観終わったときもこの曲のことをなんとなく思い出した。

 

 とりあえずパッと浮かんだのはこの3枚と2曲、あとはaikoの新作くらいだろうか。aikoもよかった。よかったけれどとにかく別れの歌が多く切実な内容で、リリック上での感情の揺れ動き方があまりにも激しくて何故か常に爆笑しながら悶絶していた。恋愛ってなんか、自分のひどいところ全部暴かれるような瞬間があるような気がする。気のせいか?まあ、少なくとも俺はいまそのゲームには参加していない(それでも心は日々揺れ動いて)。ため息一発、かましたところで今日はおしまい。バイビー。