オレとオマエのサマーソニック

 ネットやテレビなどのニュースでもサマソニ初日の熱中症に関する報道が話題になっていたけれど、現地は実際ほんとうに暑かった。俺は幼なじみと共に2日目のサマソニに参戦するため真昼の海浜幕張に殴り込んだ。もちろん前日のニュースを事前に確認していた俺は、夕方までは幕張メッセの方で観れるアクトを観ていく方針に切り替えた。当初は15時頃から野外のマリンステージにてThe Kid LAROIのライブを見る予定だったものの、濃厚な死の予感を拭い去ることが出来なかったため泣く泣く断念した。しかし、そんな甲斐もあってか(?)昼間は幕張でWILLOW、LANA、そしてAwichといった旬の女性アクトたちのパフォーマンスを目撃することが出来たし、それによって2020年代型のギャル的なマインドをもダイレクトに感じられたように思えた。特にAwichは実際に観るとびっくりするレベルのエネルギーというかバイタリティに満ち溢れていて、最初の数曲を聴いているうちにちょっと泣きそうにもなった。大きめのステージではあったものの出音も非常に心地よく、無心で頭を振りまくったりなどしながら楽しんだ。

 ライブの合間にはいわゆるフェス飯を食べたりもした。まるでなにかに導かれるかのようにタイ料理の屋台の前まで迷わず歩みを進めた俺と友人は気づいたらガパオ&パッタイが盛られたプラスチックの容器を手に持っていた。幕張メッセの会場内には飲食用のテーブルや椅子が用意されてはいたものの、さすがにソールドアウトしていただけあり大量の人間たちによってそれらはすでに埋め尽くされていた。「俺らはストリートの方が似合うだろ」とわけのわからないことを言いながら、他の多くの来場者と同じように屋台付近の地べたに直接あぐらをかいてガパオを食べた(これがまた美味しかったので大歓喜)。

 Awichのライブが終わるとすでに夕方の5時を回っていたため、6時頃からのリアム・ギャラガーを観るためについにマリンスタジアムの方へと向かう。正直、ケンドリック・ラマーを観るための場所どりに手間取らないためだけにリアムを観に行ったようなところも個人的にはあったのだけれど、実際本物のリアムを目の当たりにしながらオアシスの往年の名曲群を聴かされると全く現実味のない音現象のようにしか思えなかった。常に90年代映画のような少し褪せた質感の映像でモニターに映し出されるリアムや観客席の様子も含め、まるで走馬灯をみているかのような心地だった。嬉しいとか楽しいとかいうよりは、「俺、死んだのか?」みたいな気持ちでいっぱいだった。

 リアムが終わってヘッドライナーのケンドリックのライブが始まるまで40分くらい待った。その頃になるとすっかり陽も落ちていて、涼しい風が吹いていた。それだけでも非常に心地よかったが、尚且つ昔からの友人(サマソニに誘うまでケンドリックのことは知らなかった)が隣にいるというのがなんだか不思議でしょうがなくて、近年稀にあるようなイノセントな瞬間だったと今では思える。

 ケンドリックのパフォーマンスが始まる。俺は事前にYouTubeに上がっていた映像で今回と同じセットのライブを何度かすでに観ていたので演出面での驚きは特になかったものの、その佇まいは想像以上に「神っぽい」感じに満ち満ちていた。それは本当にすごくて、スタジアム規模でのライブなのに肩の力がストンと抜けていて、尚且つラップや発声は非常にクリアだった。彼が静かに立っているだけで広い空間の全てが満たされていく。ビートの出音もやはり良き。新作の楽曲を主軸に据えながらもほぼキャリアを網羅するかのようなセットリストは実際に目の前で聴くとこれ以上ないほどに濃密な音楽体験として俺の鼓膜やハートを貫いた(友人は腰が痛くて途中から屈みながら見ていたそう。俺も腰が痛くなった)。ヒップホップというカルチャーが生まれて50周年のこの年にケンドリックのパフォーマンスを観れたのはとても運が良かったなと思う。ギャルたち、ロックスター、そして「神っぽい」ケンドリックらのパフォーマンスはいまの自分の気分にも非常にフィットするものだったというか、ほんとうに時代が変わってきているのだなと思った。ラップのアクトで今の時点でこれだけ盛り上がっているのだから、見えてくる景色はこれからもっと変化を遂げていくのだろうと勝手に確信を深めた、そんな一日。