「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」鑑賞後メモ

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 シリーズ10作目となる「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」は本編が始まるやいなやスクリーンにどデカく「10 YEARS AGO」の文字がドーンと表示され観客の意識はいきなり5作目の「ワイルド・スピード MEGA MAX」の時代にぶっ飛ばされる。当時の悪役であった麻薬王のレイエスという男に実はダンテ(ジェイソン・モモア)という息子がいて…といった事実が5作目の映像とともに描かれる。まあ、前作におけるハン(サン・カン)の復活もそうなのだけど、後出しジャンケン的な演出をさせたらワイスピシリーズに勝るものはもはやないのではないかと思うほどの腕力を感じてしまう。やはりそういった全力の「ボケ」に対しては「その車運転してたの、お前かよ!」みたいにこちらも本気で「ツッコミ」をしてしまいたくなる。正直こちらもそれに対してまんざらではないのだから。こうした相補的な関係性(?)を思い出させてくれるのがワイスピシリーズであり、数年に一度スクリーンで再開することで我々もまたヴィン・ディーゼル演じるドムことドミニク・トレットの(もはや理不尽さを感じるほどに)とてつもなく大きな包容力に巻き込まれてファミリーの一員となっていく。

 しかし、今作は(というか毎回ではあるが)そんなファミリーたちがダンテの手によって危機に晒される。ローマン(タイリース・ギブソン)、テズ(リュダ・クリス)、ラムジー(ナタリー・エマニュエル)、ハンの4人は警察内部の秘密機関からの依頼でローマに向かう。一方でドムは妻のレティ(ミシェル・ロドリゲス)とすっかり大きくなった息子のリトルブライアン(レオ・アベロ・ペリー)らとともにLAの自宅で穏やかな生活を送っていたが、ふとしたきっかけでローマンらのローマ任務が何者かに仕組まれた罠であることを知りドムとレティも現地へと向かう(LAからローマへの到達スピードが早すぎないか?とも思ってしまうが「ファイヤーブースト」ということで問題なし)。そこからは恒例のカーアクションを見せていくシークエンスになる。そういえば、今回は基本的な物語のラインやアクションの見せ方など比較的整理されていて見やすい印象を受けた。とは言っても相変わらずの荒唐無稽さは健在で、トラックから転がり出てきたデケー球体型の爆弾がローマの街をゴロゴロ転がりながら建物やら自動車やらをぶっ飛ばしまくる様子は作中のセリフでもチラッと言及していたがMEGA MAXラストのカーチェイスを思わせたりもした。最初は高い建物の上から車を自動操縦していたダンテも何故か途中からバイクに乗って街中に繰り出してきてさっそく情報過多の様相を呈し始める。とはいえこれもいつものことだ。ドムたちの運転技術もさることながら人間としての身体能力もなんかやたらと高くてぶっ飛ばされてしまう。とはいうものの、ムスッとした表情のヴィン・ディーゼルがコンマ数秒で異様な機転を効かせて危機を阻止していくのを久々にスクリーンで見れたのはやはり嬉しい。

 先述のようにシリーズ最高傑作と言ってもいいであろう5作目のMEGA MAXから続く物語のラインが大きな軸になってはいるものの8作目のアイスブレイク以降のキャラクターたちも気がついたら割と増えていて、彼ら彼女らの活躍も今回は存分に味わえるようになっていた。なかでもジョン・シナ演じるジェイコブの役どころはいちばんおいしいものになっているように思えた。個人的にもドラマの「ピースメイカー」以降ジョン・シナを見るたびに胸の内にアツいものが込み上げるようになってしまうカラダにさせられたので素直に最高だった。最初に登場してからのアクションシーンにおける異様な強さにはやはり笑ってしまった。あとはシャーリーズ・セロン演じるサイファーも今回は気づいたらドムファミリー側に寄ってきてるし、でもレティとの取っ組み合いもしっかりやってくれたりとで見せ場しっかりある。それに加えて今作からはブリー・ラーソンも出てくるのでちょっと脳みそがちぎれそうになってくる。ドムが彼女を謎の地下施設に潜入するように説得するときのロジックも結構よくわからないのだけど常に情報量がマッシブなのであまり気にならないはず。

 あと、新要素といったらやはり今作の最大の敵となるダンテについても言及しておきたい。演じているのがジェイソン・モモアなのでそりゃマッチョで尚且つスーパー色男なわけなのだけど、キャラクター自体は敵のあらゆる情報について事前に調べ尽くして弱みを徹底的に突いていくという、近年のキャンセルカルチャーの象徴のような人物造形になっていて思ったよりもみみっちさに溢れている。終盤でドムと殴り合う場面もあるのだけど何発か殴られるだけであっさりと弱音を吐き始めたりとあまり直接的な暴力に訴えることはなく、むしろ周りの人間の弱みを握ってしまうことでマインドを支配していくジョーカーみたいな悪さを発揮してドムたちを混乱に陥れていく。

 「父親を殺された」ということに対しての復讐という至極真っ当な「正しい」理由を持ってドムたちに挑んでくるダンテを敵として据えている点や終盤の護送車内におけるドムと秘密組織のトップであるエイムス(アラン・リッチソン)のやりとりなどにおいて顕著であるが、今作は「ワイルド・スピード」というシリーズそのものに対しての自己言及的な意味合いが非常に大きい作品にもなっている。気候変動やらSDGsやらトキシック・マスキュリニティやらと盛んに叫ばれているこの時代にマッチョな男女が高級スポーツカーを何台もぶっ飛ばして爆発させてあげくの果てに殴り合っている映画ってどうなんだという切実な問題に作り手側が間違いなくぶち当たっているところなのだろうということが滲み出まくっていたと個人的に思う。このシリーズが今作とその後編に当たる自作で完結となるのもそういったある種の限界のようなものが映画(特にハリウッド映画的なもの)という磁場において生じ始めているからなのではないだろうか。ただ、そこに対して落ち込むだけで終わらないのが今作の最高なところ。本編を通して常に葛藤し続けるドムがクライマックスのダムでの場面で放つ「まだ車は奪われていない」というセリフは物語上の脈絡においてだけではなく映画(特にジャンル映画)という表現形態に対しての言及としても非常に切実で、尚且つロマンティックなフレーズであったと思う。そのあとにやるカーアクションがあまりに常軌を逸してはいるのだけれど。

 おバカ映画とか荒唐無稽とか散々言われてきている作品ではあるだろうし自分もそういう楽しみ方している部分は大いにあるのだけれど、これだけたくさんのスターが登場してド派手なアクションを2時間以上ぶっ続けでやり続ける異常事態みたいな楽しい映画が大きなスクリーンで見れる機会は今後ほんとに少なくなってくるのではないかと思う。というか、そういうことを訴えている作品でもあると思う。そこに関しては実は思った以上にシリアスな側面があるし、だから、観ておいたらいいのでは?なんて思ったり。何度も言うけれど情報量が多すぎて観終わったあとアタマ真っ白になってたけどね、俺は。