「ザ・クリエイター/創造者」鑑賞後メモ

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 ストーリー自体はとてもシンプルだと思うけれど、細やかな演出の積み重ねによって「人間らしさ」を可視化していく手腕や、ネパール、インドネシア、中国や日本といったアジアの国々を中心とした8カ国80ヶ所にクルーが赴いて撮影を行うことによって生み出された作品内におけるロケーションやルックの豊かさといった要素が133分のあいだ常に刺激を与えてくれた。一般的なハリウッド大作映画の三分の一程度の予算で作られているという情報を前もって知っていたため、なんとなくそういったところは表面的な質感から感じられなくもなかったけれど、むしろ少し乾いたような質感のCGは東南アジアの水田や山奥の風景とマッチしていたように思えた。そこには長年CGクリエイターとしての技術を積み重ねてきた監督のギャレス・エドワーズや、ドゥニ・ヴィルヌーヴによる「DUNE/砂の惑星」でも撮影を担当していたグレイグ・フレイザーによるところが大いにあるのだろう。美しいライティング(特に渋谷で撮影したと思われる夜の街の見せ方が美しかった)、そして細かくレイヤーが積み重ねられているような音響も非常に印象的だった。要は、体感としてものすごく気持ちの良い作品ということでもあるのだと思う。

 「人間らしさ」の描写についてもう少し詳しく書いていきたい。個人的に全編通して常に感動的だったのは、主人公であるジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)やアルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)らに限らず、ほとんどの登場人物たち(AIも含めた)はそれぞれにとっての「平和」のために行動しているのだが、最終的に肉体や精神の危機に陥ると愛する人の存在についての思いが溢れ出てしまう描写が積み重ねられていくところだった。しかもそれは変に長い愁嘆場となって物語の進行を妨げることはなく、スムーズな流れが続いていくあたりも非常に丁寧であったと思う。この描写が繰り返しあることやキリスト教神話的なモチーフの引用などによって、「愛」と「罪」の起源は紙一重の場所に存在しているのだということを端的に示してくれているようでもあった。その場所に象徴的な名前があるとすれば、作品内に登場するノマドという軍事施設ないし兵器の形状が端的に示してもいる「母性」と言えるだろうか。エヴァンゲリオンからの影響を思わせる演出も含まれているあたり、やはり母性はこの作品において大きなテーマであることは間違い無いだろう。アルフィーが幼い少女を模ったシミュラント(模造人間)として作られた所以とも関連していることは作品を観ていくとわかる。

 ベトナム戦争、冷戦、そして911以降のアメリカとイラクの構図などを作品世界の大きな背景としながらも、人間とAI(ないし人間、AI同士)が母性を介して相補的な関係性を築くことを目指す未来について思考するきっかけを与えてくれる作品だ。最終的にはSF大作を観た、というよりは狂おしいほどの「人間らしさ」とそれに対しての愛あふれる視点を孕んだ作品であったという後味が強烈に胸に残る。