「別れる決心」鑑賞後メモ

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 映画館に着いてパク・チャヌクの新作「別れる決心」のチケットを発券し、そのあとトイレに向かった。それから指定の劇場に入って座席についた。花粉症持ちなので鼻がムズムズしていた。しばらく我慢していたが途中で軽く限界がきて、仕方なくトーマスの映画の予告編で流れるデカい音に合わせて鼻を思い切りかんだ。すっきりした後にスクリーンに視線を戻すとスピルバーグの新作の予告編が流れていた。そうか、もう来月公開なのか、と思ったり。それからもう腐るほど観た劇場内での動画撮影禁止についてのアレが終わると、映画の配給会社とかのロゴが移され始める、とその直後にいきなりデカい銃声が聞こえてハッとさせられる。最初はその部分も制作会社とかのロゴというか映像の演出なのかと思っていたがそれはもう既に本編が始まっていることを示していた。時間と聴覚、そして視覚といった身体感覚にまるでダイレクトに突き刺さってくるかのような撮影と編集、そして演出のキレの良さに開始数分で気付かされる。5分くらい観た時点ですでに今年のトップ5くらいには食い込むだろうなというなんとなくの確信を得る。映画を観る快楽ってこういうことだったな、と思った。半分くらい観ると脚本もめちゃくちゃよく出来ていることに気づかされる。グァダニーノの新作とは全く違う方向に天才性が注がれていた。

 宇野維正氏が「こんなのはアカデミーの会員には分かりっこない」と言っていたけれど、個人的にはストレートにただただ異常に良く出来た映画作品だという印象を抱いた。実際アカデミー賞では特にノミネートもないようなのだけれど、本当に?というカンジ。普通に、面白すぎるだろこの作品。BTSのRMも繰り返し観たらしい。俺も繰り返し観たいと思ってるから、少しだけスターと感性が交錯しちゃってるよね、というね。

 サスペンスとロマンスの成分がそれぞれ半々くらいになっていて、基本的にゆったりとしたトーンとテンポ感で物語が進んでは行くのだけれど編集と演出の手際がとにかくキレキレで無駄がないので内容がスルスルと頭に流れ込んでくるし、撮影も退屈な画角を提示してくるようなことがほとんどない。しかもそれが138分続くという謎のハイクオリティ。パク・チャヌクの作品を観たことはなかったのだけれどこれ一発で完全にぶちのめされた。ヘジュン(パク・ヘイル)とソレ(タン・ウェイ)の相性の良さをふたりが手際よくテーブルの上を片付けていくカットひとつで鮮やかに示すところはニヤニヤしながら観ておりました。

 「別れる決心、そんなものこの世に実在するの?」と思いながらクライマックスまで見届ける。大人の映画、というようなことをパク・チャヌク本人もインタビューで話していたけれど、むしろ年齢とか生活のしがらみを飛び越えてしまうような清々しさと危うさが存分に溢れた作品でもあると思うます。