「夜を走る」鑑賞後メモ

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・「ブレイキングバッド」や「ベターコールソウル」に通ずる強烈なシニカルさと、鉄の無機質さ、重さや冷たさを連想させるような画面の作り方がこの作品の映画としての途轍もない強度を担保していると思う。

 これは予告編を観た段階でも強烈に感じることができた。正直、予告編だけで異質さを感じて鳥肌が立った。

・本編の冒頭に映し出される洗車用の機械。それが終盤にもう一度現れた時に谷口が呟く「まわりが動いているだけなんだ」という言葉に胸が震えた。

 スクラップ工場というモチーフも「何かが変わり続けているようで、実は本質的には何も変わっていない」ことを示すものになっている。

・他人に見せない表情が思わず露出してしまうような、社会から切り離された空間として自動車が使われているように感じられた。劇中で車を運転する秋本のマスクを下ろした無表情な横顔は、「限界まで蓄積された怒り」の象徴なのではないだろうか。そして、だからこそ自動車のドアが半開きになった瞬間にそれが溢れ出てしまうのだと思った。

・秋本と谷口がそれぞれ迎える対照的な結末は、「怒り/優しさ」もしくは「強さ/弱さ」という対照的ではあるが裏表の感情をそれぞれが振り切り続けた先に行き着いた場所を示しているように感じられた。

 「もはや姿が映されない」存在と、「手持ちの小型カメラ」で切り取られる景色。これらのショットには心を強く揺さぶられる人が多いと思う。

 幸せとは、うまく生きていくとは一体どういうことなのか、「正しさ」だけが必要なのだろうか。切実なほどに突きつけられる。

・「理不尽な偶然性」と「人間の愛憎」は人々をどこに連れて行ってしまうのだろうか。

 なにも変わらないけれどなにかが変わり続けていくこの世界はどうなってしまうのだろうか。今はまだ、物語の途中。

 

・「俺たちは人生を通して『偶然性』という名の博打を打ち続けている。ただひたすらに怒りと生活習慣と優しさと恐怖をお好みの分量でベットし続けろ!」

 なんてフレーズを思い浮かべながら鑑賞した。

・個人的にはこの作品か「TITANE」が現時点で今年最高の作品なのだけど、どちらも鉄や金属がモチーフに使われている…恐い。

 どちらの作品も見終わった後、映画館から駅までちゃんと歩くのが大変に感じるくらい心揺さぶられて頭クラクラした。