「星の子」鑑賞後メモ

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・違う文化や風俗を基盤にして暮らすような人々との間にも、単純に同じ人間同士として互いに歩み寄ることで生きる喜びを共有することは可能なのではないだろうか。他人のことを完璧には知り得ないのにも関わらず、その存在にまるで白黒はっきりさせてしまうような位置づけをしてしまうのはあまりに安易な行為なのではないか。そこにはとても繊細なグラデーションが存在しているのだということについてもっと時間をかけて考えてみたいと思わせてくれる作品。

・ひとそれぞれが持つ生活の習慣や独自のルールのようなものを尊重しようとする姿勢を描いているという点において、先日鑑賞したマイク・ミルズ監督の「C’MON C’MON」にも通ずるものがあるように感じられた。

・主人公の心が大きく揺れ動く瞬間が、本編の序盤に言及される平方根の計算における数字の「解体」と「反比例」のモチーフを通して描かれる。数学的なモチーフを用いることで、逆に数値化できない感情(歩み寄り、優しさ、良心)が人間のなかに存在していることを浮かび上がらせている。

・劇中で回収されないいくつかの噂話が不穏なムードをも演出するエンディング。日常に散らばる数多くの事実の中からどれを選び取り、自分なりの物語を構築していくのかを我々は日々突きつけられているのだろうと思う。

・主人公は美しいものに興味や執着があり、最初はハンサムな男の子や先生への憧れを示す。しかし物語が進むにつれてその憧れは薄らいで、それと「反比例」するように良心を分け与えてくれる身近な人々を大切にしようとする思いが自分の中にあることを確信し始める。主人公が信じていたいと思うもの、それが例え不確かさや脆弱さを抱えるものであったとしても、彼らだけが共有しうるかけがえのない記憶や感情の機微がそこにはある。本編ラストの場面での主人公の仕草がそれを端的に物語っている。