「カウボーイビバップ」や「攻殻機動隊」、「ブレードランナー」をはじめとした近未来SF的テクスチャーをそのビジュアルやリリック、サウンドにどっぷりと染み込ませた彼の存在感は「アタマ、つま先まで間違いない」←(「I am Special」収録の「Credit Girl」より引用)。
Kamui x u.. 名義で2016年にリリースされた「Yandel City」、なかむらみなみとのユニットであるTENG GANG STARRとしての活動、また2020年末にリリースされた「YC 2」に至るまで彼はサウンドやフロウの面において何度かの変容を繰り返しながらも、その芯に宿る魂やスタンスを洗練し続けている。基本的にはLil Peep以降のエモラップとして括られることが多いのかもしれないが、エミネムの「Lose Yourself」や映画「8Mile」のコンピレーションアルバムがヒップホップにのめり込んだキッカケでもある彼のラップからは、’90年代、’00年代的な感覚も染みついているように感じられる。
ラップのフロウは「Yandel City」の時とは打って変わり、鮮明で聞き取りやすい言葉の配置がされている。トラックの方も「All Eyez On Me 」というフレーズが「Gift」で引用されているように、前作と比較してもグッと90年代的なスタンダードなスタイルに寄っている。これはKamui自身がType Beatを大量に漁って形にしていったものだそう。
「カウボーイビバップ」第一話のアヴァンタイトルを連想させるような鐘の音がアルバムの冒頭で鳴り、それは「濡れた光」の直前にも鳴り響く。一度沈み切った彼の魂はしかし再び次の楽曲「Free」で燃え上がる。「switch my life, switch my mind, switch myself」と何度も彼自身に言い聞かせながら、それと同時に「Just find me」と弱々しく囁くような脆さも抱えながら、彼は再び歩き出す。
その後、抱えていた弱さと向き合った作品が、2019年リリースの「I am Special」なのではないだろうか。
もうひとつはアルバム全体のサイズ感にある。このアルバムは全12曲が28分14秒に収まっており、非常にコンパクトにまとまっている印象がある。それでも、ラップのフロウのアプローチはこれまでのどの作品よりも豊富だ。トラックも基本的にはトラップ以降の感覚を汲んだものでまとまっており、軽やかですらある。キャリアを積むことで、かつての混沌をある種ポップな領域にまで押し上げることに成功している。ヴィンスステイプルズの傑作「Big Fish Theory」をも連想させるアシッドハウスビート(Actressの「Ascending」からのサンプリング)の上で、ブチギレた怒りを軽快に乗りこなしていくような「Tesla X」や、「Cramfree.90」以降の明瞭さで感情を吐き出し尽くす「疾風」はこのアルバムのハイライトであり、これまでで最も高い到達点のひとつであると思う。
Kamuiがなぜ「YC2」をこのような形に仕上げようとしたのかということに関して、もうひとつ個人的な推測を書き加えておきたい。アルバム最後の楽曲である「Hello, can you hear me」では、かつての記憶が遠のいていくことの寂しさや切なさが描かれていて、だからこそ彼はそれを忘れてしまう前に「手を差し伸べ」たのだろうと思う。この楽曲名の持つある種の「軽さ」は、彼のマインドがそれなりに良好であることの表れなのではないだろうか。あるいはここにはもう、かつての弱さに溺れる彼はいないのかもしれない。
まあ、ざっと、こんな感じで好き勝手書いた。ここまで読んでいただいた方には、感謝。
ちなみに、Kamuiは2019年末からはMenace無、ODETRASH、XakiMicheleといった若手をフックアップし、共にMUDOLLY RANGERSとしての活動も行なっている。2020年には奈良県出身のバンド Age Factoryの楽曲である「CLOSE EYE」のリミックスに客演しており、ミュージックビデオもある。2021年内に「YC2」のいわゆるデラックス盤である「YC2.5」のリリースも予定しているとのこと。
あ、そうだ、これもあまり言及されてないけど、KamuiはTENG GANG STARRの頃からミュージックビデオの質がかなり高い。質が高いというのは具体的に言うと、退屈なショットがあまりないとか、編集のキレのよさとか、そういうところだろうか。映像の方でも彼が大きく関わっているようで、その方面でのセンスがすごく良いのだなと感じる。