Tohjiが嫌いな冬がいよいよ本格的に始まろうとしているなと痛感せざるを得ない寒さに最近は震えながら過ごしている。まだ暑かった頃には毎日繰り返し”ULTRA RARE”とか”Super Ocean Man”のMVを見ていたけれど、さすがに今見ると風や水が冷たそうだなあなんて思ってしまう。当の本人はいまどんな気持ちで過ごしているのだろうかとふと気になったり。ネットにファンが上げていた夏のワンマンライブの動画を見てみたら、「お前ら、そんな調子じゃ秋来ちゃうよ〜」と観客を煽っていて笑えた。Tohjiは気の合う仲間たちとの「ゆるやかな繋がり」を”MALL(=ショッピングモール)”というフレーズで表現していて、それは彼が好んで用いる水のイメージのしなやかさとも繋がっているように感じる。正規メンバーやサポートメンバーといったような人間関係を規定する概念を退けることでより風通しのよい有機的な関係性、即ちコレクティブを築こうとする試みはミレニアル世代以降のアーティストの間ではすでに広まっているけれど、皆が少しずつ違う方向を見ながらもひとつの空間を共有している人間たちを”MALL”という言葉で形容するTohjiには小市民的な感覚に寄り添おうとする視点もあるように思える。
「その道の向こうに」においても水が「しなやかさ」のモチーフとして繰り返し現れるが、それは主人公であるリンジー(ジェニファー・ローレンス)やジェームズ(ブライアン・タイリー・ヘンリー)らが抱えるトラウマに対して有効なスタンスのひとつとして示される。アフガニスタンからの帰還兵であるリンジーは現地で脳出血を伴う外傷を負い退役を余儀なくされ、精神面での疾患を抱えたまま地元であるニューオーリンズに戻る。そこで偶然歳の近いジェームズと出会うのだけれど、物語が進むうちに実はふたりとも自動車が絡んだ事件や事故のトラウマを共通して抱えていることに気づく。リンジーはジェームズとの関係性を軸に今まで意図的に距離をとっていた母や他の家族との関係性を改めて見つめ直していくようにもなっていくのだけれど、そのしがらみを少しずつ解いてくような段階において水のモチーフはやはり象徴的に映されている。他者との関係性においてしなやかであること、規定された型に当てはまることから距離をとることが大事で、それによって少しだけ明るい未来を感じ取れるようになっていくのだと。作品冒頭のショットはリンジーの横顔にのみピントが当たっていて周りの景色が全てボヤけており、完全に自意識に埋没している彼女の心を表したものになっているが、ラストの彼女は「友達」を真っ直ぐ見つめている。
リンジーがいつ体調を崩してしまうか分からない緊張感が常にありながらもこの作品のトーンは最初から最後まで柔らかく優しい。しかし、それでも少し深いところに潜るとそこには重い感情や記憶の層がいくつも折り重なっている。ひとの胸の中の誰にも触れられない場所、そこに対して有効な手助けをすることや限りなく完璧な理解を追い求めることは不可能に近いのかもしれないが、「ゆるやかな繋がり」の中で少しずつ水面に波動を走らせるように温もりを伝え合うことが出来るのなら、先の見えないこの旅路を未来と呼んでもいいと思えるようになるのだろうか。
話は変わるけれど、最近巻き起こった中国のゼロコロナ政策抗議デモにおいても「Be Water」というスローガンが掲げられていて、それが市民の間でのゆるやかな連帯を促していた。ブルース・リー由来のフレーズらしい。
…ところでジェニファー・ローレンスを見ると何故か山﨑邦正を思い出してしまうのはふたりとも目元が悲しげだから、なのかな。