「ほつれる」鑑賞後メモ

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 「冷たさ」についての映画。現代の東京を主な舞台としているが、カメラが切り取る主人公らの暮らすマンションの一室や街の景色、自動車やロマンスカーの鉄とガラスの質感はヒンヤリと冷たさだけを帯びていて、まるでSF映画を見ているような心地がする。全編を通してほぼ全ての人間が「本当に言いたいこと」をストレートに話す瞬間がなく、婉曲的で柔らかさだけを突き詰めた(しかしそれにより遠ざけられる本音は無言のうちに鋭さを増す)会話が積み重ねられていく脚本は見事だと思った。温泉という、誰もが安らぎとともに体を温めることが出来そうなロケーションを映している瞬間さえヒリヒリとした空気感を孕むこの作品内で、どこに「暖かさ」が存在しうるのか。それはきっと、目に見えないもの、すでに目に見えなくなった時間の中に見出しうるのであり、それを体現しているのが染谷将太が演じている人物であるように思えた。

 画面のアスペクト比がスタンダードサイズになっていることで、闇の間に浮かび上がる光、熱としての映画という構造がより強調されているようにも感じられる。映画を観ているとき、我々は網膜を通り抜けていった無数のカットの連なり、その記憶を手繰り寄せている。本当に伝えたい思いをきちんとその手に取り戻そうとすること。