「THE FIRST SLAM DUNK」鑑賞後メモ

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 「ノイズだらけのアナログレコード 回れば本気モード」

 主人公が桜木ではなく宮城リョータにスイッチしているということがまるで劇中の山王戦におけるパス回しのように原作ファンの意表を突いたことは間違い無いだろう。一方でこの文章を書き始めた自分自身のようにそもそも原作にタッチしていない人間も強固なディフェンスの如く製作陣の前に立ちはだかっているわけで、それをどう超えていく?

 桜木は恵まれた体格とともに「飛ぶ」才能を発揮することで壁を突破しダンクシュートをきめることが可能だが、身長の低いリョータはドリブルでそれを超えていくことを試みる。父、そして兄のソータを亡くしてからの日々と山王戦のタイムラインを交互に反復する構成はそのまま彼がドリブルを行う運動とリンクしていく。劇伴においては1度と5度の和音=パワーコードがドッシリとしたディストーションサウンドで鳴らされる。豊かなハーモニーとは言い難い直情的で硬質なサウンドが太いベース、ドラムスと共に叩きつけられる。湘北は少しまとまりを欠いている。固すぎる山王のディフェンスを前に苦戦を強いられる。リョータの過去がフラッシュバックする。ソータの残像を自分自身に重ねようとする幼いリョータは能面を被り、兄の部屋で「月刊バスケットボール」を読み始める。しかし、やがて母のカオルに「ここに来るな」と告げられる。

 「でもな 母ちゃん そこだけは譲れねんだ 百歩も 一歩も 半歩も」

 リョータはドリブルを続ける。少しずつ進み続ける。

 やがてパスの技術を認めてくれるひとの存在を彼は知る。コートの上でまなざしを交わし合うことで「しゃべる」感覚を仲間と共有し始める。

 桜木がリバウンドを決めた。流れが少し変わる。やがて劇伴のアンサンブルにピアノのフレーズが絡む。ハーモニーが立ち上がり始める。湘北のスタメン5人がそれぞれ抱える物語がリョータのドリブルと共鳴しあう。リズムが刻まれる。ボトムを増したグルーヴで点差を詰め始める。その勢いに呼応するかのように山王も熱量を増し始める。ドリブルの勢いは増し、感情の振れ幅が広くなる。リョータの過去がフラッシュバックする。

 沖縄の海、夏の夕立。かつては防空壕であったことを思わせる秘密基地の洞穴の中でソータの残像と自身を重ねる。

 「行けるとこまでどこまで逃走する が小動物なりに闘争する」

 リョータはドリブルを続ける。身体は悲鳴をあげている。でも諦めていない。勢いは増す。三井の右手が鮮やかなスナップと共に3ポイントシュートを放つ。彼を蘇らせるサウンドがコートに響く。赤木は床に突っ伏す。かつてのしがらみを思い出す。そこでもがいた分だけ強固なものになっていった湘北のグルーヴの上で桜木が再び飛ぶ。派手なソロプレイをキメるためではなく、グルーヴを繋ぐための跳躍。流川のマインドがそこに共鳴する。山王の圧倒的エースである沢北を欺く一手。流れが変わる。

 「諦めたら、そこで試合終了ですよ」

 試合は続く。円陣を組む。5人の物語が重なる。湘北のグルーヴは数段上のグレードへ上がる。

 リョータはドリブルを続ける。

 「黄金期はいつだったんだ?」

 リョータは自身に重ねていた兄の残像を超える。劇伴に歌が加わる。それはひとつのソングになる。湘北のパス回しが縦横無尽に駆け巡る。5人全員で空中においての自由を獲得する。カメラワーク=作画は限界を超えアニメであることを観客の意識から一瞬完全に奪い取っていく。不意を突くスティール。山王が湘北のサウンドに呼応する。熱量が増す。

 「頑固者の中の頑固者と呼ばれてきた 何度も」

 誰もがボールを追う。やがて音が消える。選手たちは風になる。

 最後の数秒は最も静かで、かつラウド。その瞬間において、全てのまなざしは一点に重なる。

 「持ってるヤツに 持ってないヤツが たまには勝つと思ってたいヤツ」