「メタモルフォーゼの縁側」鑑賞後メモ

youtu.be

・流れゆく日々を生きている中で誰かから受け取ったりどこかで感じたりした優しさや喜びを忘れられない、もしくは忘れたくないから人間は生きているのではないだろうか。誰しも多かれ少なかれ生きている限りは志向性が備わっていて、それはかつて触れた美しさを燃料にして心のどこかで燃え続けているのだと思う。そこから生まれるエネルギーを元にして、人間は行動を起こし始めるのかも。本編ラストのセリフもこのことに通ずるはず。

・人物に輪郭を与えていく行為のモチーフとして漫画が使われている。自分と他者、内と外、現実と非現実が混ざり合う空間=「縁側」で交流することで、芦田愛菜演じるうららは自分自身の輪郭(=本質)を少しずつ知り、宮本信子演じる雪は新たな世界を知ると共にかつて感じていた喜びの輪郭を再びなぞり始める。他者との関係性を通して、作中の登場人物たちは自分自身の既存の輪郭を超え、変容=メタモルフォーゼを遂げる。

 自分にとって大切なモノや美しさとはどんなものなのか。そのヒントは記憶のなかに眠っていて、それに触れることで新たな未来への入り口を知るのかもしれない。

・数ある漫画の中でもBLが引用されるのは、(少なくとも作中に登場する作品は)自分が抱える恐れや弱さを超えていく勇気や、その先にたどり着く美しい景色=「完璧な一日」を描いた物語だからなのだろうと思う。

・脇役の人たちやセリフの少ない人たちに対しての演技の演出がきめ細かく丁寧な印象を受けた。常に薄味で品のあるユーモアが効いており、心地よさを担保していた。物語中盤、照明の明暗のコントラストとモノローグを利用した主人公の心理の引き裂かれ描写もとても印象的だった。